腕時計と戦争。技術の革新は戦場から生まれた

技術の革新と変化はいつ生まれるのでしょうか?産業革命後、人類は爆発的に技術の革新を進めていきました。産業革命が人類に与えたものは豊かさだけでしょうか?

産業革命は確かに豊かさを人類に与えました。しかしそれと同時に、あくなき欲望を人間に与えました。そしてその欲望を満たすための力を与えました。

世界は支配する側、される側に別れ、世界中で争いが始まりました。技術は争いの中で進化を遂げていきます。そしてそれは腕時計も同じです。

時計はなぜ腕時計になったのか?そして今後、腕時計はどのような役割を果たすのでしょうか?



戦争の道具として生まれた腕時計

1700年代当時。携帯する時計といえば貴族や僧侶がポケットに忍ばせている懐中時計が主流でした。

腕時計と思われるものも存在はしていましたが、それは装飾品の色合いが強く、決して実用的なものではありませんでした。

時計の転機が訪れたのは19世紀。世界は帝国主義の時代を迎えていました。産業革命がもたらした工業は人々に豊かさを与えていました。

しかし、その豊かさを享受するには莫大な資源を必要とします。

産業革命を最初に迎えたのはイギリスです。そしてそれに対抗するように欧州各国が競って工業力を強化していきます。

それに伴い、各国は資源を求めて他国へと進出していきます。

1880年、イギリスが資源と植民地を求めてアフリカに進出し勃発したボーア戦争。この時、イギリスの将兵が懐中時計を腕に巻きつけて使用したのが腕時計の始まりとも言われています。

これは戦闘中、いちいち懐中時計を取り出している暇がないことから考案されたアイデアですが、実際に戦闘の最中では兵士一人一人が正確に時間を把握しながら連携して動かなければなりません。

技術力の発展した近代戦において、腕時計は作戦の成否をわける重大な要素と成りつつあったのです。

引用元:Wikipedia


戦争のために量産化される腕時計

ボーア戦争と同時期に、ドイツ皇帝がジラール・ペルゴに軍用腕時計を2000個発注したという記録があります。

しかし、この腕時計が実戦で使用されたという記録はなく、実際に近代的な腕時計が戦場に登場するのは1912年頃、世界で最も悲惨な戦争と称される第一次世界大戦中、アメリカ軍で兵士に支給されたハミルトンの腕時計です。

その後、戦争は地上から海、そして空へと広がります。航空戦力が雌雄を決しはじめた第二次世界大戦中、アメリカ空軍を支えたのがオリスです。

高い上空で作戦を遂行する兵士には、凍傷を防止するための分厚い手袋が支給されていました。

兵士たちは分厚い手袋をはめたまま、小さなリューズをまわし、作戦時間の設定、変更を行う必要がありました。

上空3万フィートの極限状態ともいえるなか、更に戦争という狂気の空間で小さなリューズを必死にまわすことは兵士たちに極度のストレスを与え、作戦にも支障をきたしはじめました。

そのため、オリスは分厚い手袋をはめたままでも簡単にリューズをまわせる、ビッグクラウンという大きなリューズを備えた腕時計を開発しました。

この画期的な開発により、アメリカ空軍は戦況を大きく変えることができたといいます。

戦争と宇宙と腕時計

第二次世界大戦が連合国の勝利で終わると同時に、世界は民主主義と共産主義に分かれて再び争いを始めました。冷たい戦争。冷戦のはじまりです。

冷戦中、アメリカとソ連という二つの超大国は宇宙に目を向け始めました。

熾烈な宇宙開発競争の中、1961年、ソ連が世界で初めての有人宇宙飛行を成功させます。

ガガーリンと共に初めて宇宙に行った腕時計はシュトゥルマンスキー。宇宙空間にも耐えられるように、ソ連が研究に研究を重ねて送り出した腕時計です。

そしてそれに対抗するかのように、月に人類を送り込んだアメリカ。

アポロ計画と名付けられたそのミッションに選ばれた腕時計。そして乗組員の命を救った伝説の腕時計。それがオメガです。

宇宙開発と聞くとなんだかロマンがあるように聞こえますが、これも結局は軍事目的、覇権争いの一環です。しかし、その熾烈な争いが腕時計を進化させていったのです。

21世紀の腕時計

腕時計は戦争と共に、国の覇権争いのために進化を遂げてきたのは悲しいですが事実です。

21世紀に入り、世界中を巻き込むような戦争はまだ起きてはいませんが、腕時計は更に進化を遂げつつあります。

ウェアラブルという新しいシステムが開発されたことにより、腕時計は単に時間をみるものだけではなく、あらゆる情報を発信、収集、閲覧できるようになりました。

しかし、ウェアラブルを機能させるインターネット。実はこれも元々は軍事用に開発されたものです。

戦争により進化を遂げる腕時計と技術。100年後、人類は腕時計にどのような役割を求めているのでしょうか。