トゥールビヨンの歴史
今から200年以上前、1801年6月26日、一人の天才時計職人アブラアンールイ・ブレゲが懐中時計の為に『トゥールビヨン(渦)』と呼ばれる新しいタイプの調節機構の10年間の特許権を取得したことからその歴史は始まります。
初めてトゥールビヨンを腕時計に搭載したのはフランスブランドのLIP で1930年の事でした。その後1947年にOMEGA、1948年にパテック・フィリップが相次いで開発しましたが、トゥールビヨンによる姿勢差の補正はあまり効果がなく、時代の流れから機械式時計と共に衰退してしまいました。
その後、1983年ブレゲがトゥールビヨンを腕時計で復活させて以降、機械式時計ブームに乗って、トゥールビヨンはその構造を見せるための高級機能となって復活を果たし、現在は工作機械の高性能化も手伝い、多くのメーカーがトゥールビヨンを製作するようになっています。
2016年にはタグ・ホイヤーがトゥールビヨン搭載クロノグラフを170万円台という低価格でや発表する一方、立体式やダブルトゥールビヨンなどの高価格化の二極化が進み、新しい形のトゥールビヨンの歴史が刻まれつつあります。
トゥールビヨン発明の背景
元々、高性能なクロノメーターなどは、基本的に固定され一定の姿勢が保たれる事を前提に作られていました。
時計はその構造から、内部の動力機械(ゼンマイや歯車など)は文字盤に平行に設置されます。
つまり動力は香箱車(1番車。時計の動力源となる主ゼンマイを格納し、時計の動きを制御)に輪列(平行)に置かれた二番車(60分で一周し、分針の動きを制御)→三番車(二番車と四番車の間を取り持つ中間車)→四番車(ガンギ車に絡んで、60秒で一周するように調整され、秒針を回す)→エスケープメント(脱進調速機)部であるガンギ車、アンクル、テンプ、ヒゲゼンマイへと伝わっていきます。そして各々の動力機械が連なって回転していき時を刻みます。
しかし懐中時計の場合は縦に収納される場合も多く、文字盤を上にした時、12時方向を上にした時、6時方向を上にした時、3時方向を上にした時、9時方向を上にした時、それぞれのパターンで、内部機械のゼンマイや歯車の位置が中心線からズレてしまい、それぞれの重さの違いで微妙な重量バランスに違いが出てしまいます。さらに重力の影響も受けてしまい、重力の掛かる方向が変化してしまう事で動力部の回転にも微妙な影響を与え、時計を傾ける角度や方向によっての精度誤差が生じてしまいます。
この時計の置き方などによる精度の狂いを「姿勢差」と呼んでいます。
この姿勢差から生まれる誤差を無くそうという発想や、重量や重力の影響を回避する為に試行錯誤を繰り返した結果、トゥールビヨンという構造が誕生します。
トゥールビヨンの構造
重力こそが時計ムーブメントの規則性の敵と考えていたブレゲは文字盤に平行に輪列されていた部品のうち二番車、三番車を除く、四番車以降の構造に着目。
可動式キャリッジの内部に、脱進機全体(レバーやガンギ車、アンクル、テンプ、ヒゲゼンマイなど最も重力の影響を受けやすい部分)を格納し、固定した四番車の上に乗せ1つのパートを作りあげるという発想を思い付きました。
しかし可動式キャリッジの重量は動力伝達に使える力の大きさから考えるとかなり重くなっています。
これらは自力では動かず、加速させるのも簡単ではありません。
この問題を解消するため、一旦ガンギ車をテンプなどと分け別々に回転させるようにしました。(現在のコンスタントフォース機構が継承しています)
この可動式キャリッジ全体と固定した四番車の下に回転させるカナ(小歯車、ピニオンとも呼ばれる)を設置し、通常は中間車にしか過ぎない三番車に絡ませ動力を伝達させる事にしたのです。
そしてガンギ車と同軸にあるガンギガナがキャリッジの下にある四番車に絡み、回転しながら、固定された四番車の周囲を回るようにして、その動きに連動して脱進機を収めたキャリッジの回転が調速される機構を作り出しています。
現在の時計の場合、このキャリッジは1分間に1回転し、スモールセコンドの役割も果す事があります。(ブレゲが発明した当時のトゥールビヨンは4分で1回転でした)精度を司っている脱進調速機がこのように回転するため、不具合の原因が規則的に繰り返され互いに相殺しあい、更に軸受内でテンプが回転する事で、ゼンマイのたわみや、注油の溜まりも解消される事になりました。
しかし、このトゥールビヨンは、150を越える微細なパーツの組み立てが必要になる非常に複雑な機構で、精度を出す事が難しく、調整が甘い時計では、逆に誤差が大きくなり本来の精度向上という目的を果す事が出来ません。
この微細な調整は高い技術を持つ職人の感覚によるものになり、量産化出来ず、機械時計ブームが起きた1980年代後半でも「(トゥールビヨンを)製造できる時計師は世界で10人しかいない」といわれ、現在もコンプリケーション(超複雑機構)のひとつに数えられています。
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>しかし、このトゥールビヨンは、150を越える微細なパーツの組み立てが必要になる非常に複雑な機構で、精度を出す事が難しく、調整が甘い時計では、逆に誤差が大きくなり本来の精度向上という目的を果す事が出来ません。
セイコーのトゥールビヨンみると普通の機械式の方が日差小さいようだし、部品点数が増える=誤差を生む要素が増えると言うことではないのか?と思っていたけど、本当にそうなんだな。
今日日機械式を使う人間が合理的理由で判断はしないんだろうけど、「精度を出すために複雑機構にしてパーツを増やし技術の粋を集めて組み立てた結果、精度が悪化した。」では何の冗談かと思う。